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名古屋地方裁判所 昭和46年(モ甲)252号 判決

債権者

(異議被申立人)

古野電気株式会社

代理人

田井董

外三名

債務者

(異議申立人)

鈴木魚探株式会社

代理人

石井成一

外四名

主文

一、当裁判所が昭和四六年(ヨ)第五三八号仮処分命令申請事件について昭和四六年四月二三日にした仮処分決定を認可する。

二、訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

〈前略〉

(被保全権利について)

三、債権者の権利

(一)  債権者は、昭和四五年七月一三日、申請外古野清孝(債権者の代表者)から、その有する左記意匠権(以下「本件意匠権]という)につき、専用実施権の設定を受け、同年九月二七日付をもつて右設定登録を了して専用実施権者となつた。

なお、右専用実施権(以下「本件実施権」という)の範囲には何等制限が無い(意匠権の「全部」である)。

〈本件意匠権の表示〉

意匠権者 古野清孝

意匠に係る物品 超音波探知機

出願日 昭和四一年五月二三日

出願番号 昭和四一年意匠願第一五、八七三号

登録日 昭和四五年四月一六日

登録番号 意匠第三一三、九五三号

〈中略〉

(仮処分の必要性について)

七、債権者は小型の超音波魚群探知機の開発に世界に先馳けて成功し、これを企業化した。その後、営々企業努力の結果、内外に市場を開拓し、現在では債権者製品は、国内に於ける需要もさることながら、海外市場に於いても性能の優秀さと意匠の斬新さをもつて知られ、極めて高い評価を受けている。

因みに、昭和四五年度に例をとれば、債権者製品の販売台数は合計三〇〇〇台余にのぼり、そのうち約七五パーセントが輸出に向けられている。海外市場の主なものはオーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、アメリカ等漁業の盛んな諸国である。

八、ところで、債務者は、その製造にかかる小型超音波魚群探知機を、国内市場については、“SUZUKI ES-101”なるマークを付して自らの名で、また海外市場については“J. MARINA F-101”なるマークを付して申請外日本マリナ株式会社の名で、それぞれ販売している。しかしながら、両製品は全く同一の製品である。

そして、その意匠が本件登録意匠と極めて類似するものであること、は先に詳細に検討したとおりである。

九、債務者が本件登録意匠の侵害品を製造、販売しはじめた為に、内外市場のいたるところで混乱を生じ、債権者は多大の迷惑を蒙つている。オーストラリアをはじめ主要な海外市場に於いて、債務者は債権者の販売代理店に対し、債権者製品と同一の超音波魚群探知機を債権者製品よりも安く売ると称して強引な売込みをはかり、債権者が多くの時間と費用をかけて育成した販売網を侵奪しつつある。また、このような方法で輸出された債務者製品は、いたるところで債権者製品と誤認されて買われ、着々と販売実績をのばしている。かくて、債務者が本件意匠権の侵害品の販売により内外市場に於いてこれ迄にあげた利益は、合計約四二〇〇万円にのぼるものと推定される。

一〇、この為、債権者に対しては、海外の販売代理店や現地駐在員から、債務者製品が債権者製品と混同される為に販売上多大の支障がある旨の報告や善処方を要望する業務連絡が頻々と届いている。また、債権者の貿易部長が海外出張の際、現地の販売代理店から、同じ製品に違うマークを付して売るようなことは、市場混乱のもとだからやめて欲しい旨の苦情を申立てられたこともある。或いはまた、同様の機会に、販売代理店から、新型を出したのなら販売代理店である自分にまず知らせてくれなくては商売がやり難くて困るではないかという趣旨の苦情をいわれたこともある。この種の事例は枚挙に暇無く、市場混乱による債権者の被害ははかり知ることが出来ない。

一一、これに対し、債務者がその製品の意匠を変更し、本件意匠権とは類似しないものに切替えることは、いと易いことである。意匠については、内部の機構をいじらなくても外観のデザインだけを変えればそれで済む話である。

従つて、債務者が現在の債務者製品の製造、販売を停止されたとしても、適当にモデル・チェンジして営業を継続することは全然差支えない。

因みに、債務者は、債権者からの権利侵害行為停止要請に対し、デザインを変更する旨の回答を寄せながら、その後一向にこれを実行しない。この間にも相変らず従来の債務者製品の製造、販売や広告等を続けている。

理由

第一、(被保全権利)

一、〈書証〉によると申請の理由三の事実を認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠はない。

二、債務者が別紙物件目録記載の超音波魚群探知機を製造し、国内市場に対しては自ら販売元として、また海外市場に対しては申請外日本マリナ株式会社の名で、右製品の販売輸出を行なつている事実については、債務者は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

三、債務者の本件意匠登録無効の主張について

意匠登録の無効を主張するには、意匠法所定の審判手続によるべきである。このことは、意匠法第四八条第一項及び第五〇条第一項の規定に徴して明らかなところである。従つて、債務者の右主張は既にこの点において理由がない。そこで、以下においては、本件意匠登録は有効であることを前提とする。

四、本件登録意匠と債務者製品(一〇一型)意匠との類似判断。

(一)  先ず右両意匠と、併せて、この点に関する債務者の主張の範囲でレイション社の七二五型意匠の各要旨を見るに、成立に争いない甲第四、第五号証、第一六号証および検証の結果を総合すると、次の点を指摘することができる。すなわち、

(1) 全体の形状

(イ) 本件登録意匠

(a) 高さ二〇センチメートル、横幅29.5センチメートル、奥行14.5センチメートルで、その比が約1対1.44対0.73の直方体である。

(b) 平面又は底面と左右両側面或いは正面及び背面が交わる稜にやや丸味を帯び、しかもその丸味は、後者の方が前者よりも小さい。

(c) 正面を除く各面は暗い淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(ロ) 一〇一型意匠

(a) 高さ19.5センチメートル、横幅29.5センチメートル、奥行14.5センチメートルで、その比が約1対1.5対0.73の直方体である。

(b) 平面又は底面と左右両側面或いは正面背面が交わる稜は丸味を帯び、しかもその丸味は後者の方が前者よりも小さい。

(c) 正面を除く各面は暗い淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(ハ) 七二五型意匠

(a) 高さ15.9センチメートル、横幅27.7センチメートル(狭い部分で26.8センチメートル)、奥行13.6センチメートル(狭い部分で11.6センチメートル)で、その比が約1対1.74対0.85の奥行が短かく、断面がおしつぶされたような横長の六角柱形である。

(b) 平面又は底面と左右両側面とが交わる稜は少しく丸味がついているが、平面又は底面と正面が交わる稜は丸味がない。

(c) 正面を除いた各面は明るい淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(d) 底面の奥行より平面の奥行の方が長く、平面は正面側ヘフード形に張り出しかぶさつている。

(2) 正面

(イ) 本件登録意匠

(a) 縦と横の比率が約1対1.44の矩形であり、その周縁は、筐体の壁端がハンマーネット塗装された丸味を帯びた枠状をなして見える。

(b) 枠の内側は、上下二つの部分に分かれ、上部約三分の二は黒色の目盛表示プレート、下部約三分の一は明色のダイヤル表示プレートからなる。

(c) 黒色矩形の目盛表示プレートについて

(ⅰ) その右約一〇分の四の部分には大きな透明な円形の窓があり、その透明窓の裏に廻転深度目盛盤が設置されている。

(ⅱ) 右円形透明窓の中央に黒色のツマミがある。

(ⅲ) 右目盛側には目盛盤と回転軸を同じくする記録用ペンが左方に出ている。

(ⅳ) その左約一〇分の六の部分には大きな透明な記録紙窓が設けられている。

(ⅴ) 右記録紙窓は横長の長方形であるが、その右辺は、前記廻転深度目盛盤と重なるところが弧状となつて内側に喰い込んでいる。

(ⅵ) 右記録紙窓の中の右側部分に廻転深度目盛盤と同心円状の透明な目盛尺プレートが設けられている。

(ⅶ) 右記録紙窓の奥には無色無地の記録紙が入つている。

(ⅷ) 右記録紙窓の周りは黒枠となつており、その幅は左縁、上縁、下縁の順序に狭くなつている。

(d) ダイヤル表示プレートについて

(ⅰ) 縦横の比が約一対五の明色無地の矩形である。

(ⅱ) その右から約四分の一のところに小さな角形のボルトメーターが置かれている。

(ⅲ) 右ボルトメーターの右側には、小さなマーカーボタン及び小さな電源スイッチが縦にならべて置かれ、左側には、六角形のツマミのついた黒色のダイヤル三個が置かれている。

(ⅳ) これらはほぼ等間隔に見えるように単純に横一線に配せられている。

(e) 筐体の左側に接して小さなパッチン錠が見え、筐体の下側には左右に小さなゴム足が見え、両側の上から約四分の一のところに中央に把手とりつけネジがあつて、そこにu字形の明色板状の把手がつけられている。

(ロ) 一〇一型意匠

(a) 縦と横の比率が約1対1.5の矩形であり、その周縁は、筐体の壁端がハンマーネット塗装された丸味を帯びた枠状をなして見える。

(b) 枠の内側は、上下二つの部分に分かれ、上部約三分の二は黒色の目盛表示プレート、下部約三分の一は明色のダイヤル表示プレートからなる。

(c) 黒色矩形の目盛表示プレートについて

(ⅰ) その右約一〇分の四の部分には大きな透明な円形の窓があり、その透明窓の裏に廻転深度目盛盤が設置されている。

(ⅱ) 右円形透明窓の中央に黒色のツマミがある。

(ⅲ) 右目盛盤の裏側には目盛盤と回転軸を同じくする記録用ペンが左方に出ている。

(ⅳ) その左約一〇分の六の部分には大きな透明な記録紙窓が設けられている。

(ⅴ) 右記録紙窓は横長の長方形であるが、その右辺は、前記廻転深度目盛盤と重なるところが弧状となつて内側に喰い込んでいる。

(ⅵ) 右記録紙窓の中の右側部分に廻転深度目盛盤と同心円状の透明な目盛尺プレートが設けられている。

(ⅶ) 右記録紙窓の奥には無色無地の記録紙が入つている。

(ⅷ) 右記録紙窓の周りは黒枠となつており、その幅は左縁、上縁、下縁の順序に狭くなつている。

(d) ダイヤル表示プレートについて

(ⅰ) 縦横の比が約一対六の明色無地の矩形である。

(ⅱ) その右から約四分の一のところに小さな角形のボルトメーターが置かれている。

(ⅲ) 右ボルトメーターの右側には、大きなダイヤル一個が置かれ、左側には、小さなツマミダイヤル二個、小さな押ボタン一個及び大きなダイヤル二個が順次置かれている。

(ⅳ) これらはほぼ等間隔に見えるように単純に横一線に配せられている。

(e) 筐体の上側中央に接して小さなパッチン錠が見え、筐体の左側下方に二個のコンセントが見え、筐体の下側には左右に小さなゴム足及び蝶番が二個見える。

(3) 背面

(イ) 本件登録意匠

(a) 正面と同じく縦横の比が約1対1.44で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(b) 左下方に大小二個のコンセントがある。

(c) 筐体の下部左右には小さなゴム足が見える。

(d) 筐体の上方には逆U字形板状の把手が見える。

(ロ) 一〇一型意匠

(a) 正面と同じく縦横の比が約1対1.5で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(b) 筐体の右側下部に二個のコンセントが見える。

(c) 筐体の下部左右に小さなゴム足と蝶番が見える。

(4) 右側面

(イ) 本件登録意匠

(a) 縦横の比が約1対0.73で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(b) 上から約四分の一のところ中央に把手取付ネジがあり、把手が上方にとりつけられている。

(c) 筐体の左側には正面のツマミが二個見え、右側には背面のコンセントが見え、下には小さなゴム足二個が見える。

(ロ) 一〇一型意匠

(a) 縦横の比が約1対0.73で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(b) 中央に把手取付ネジがある。

(c) 筐体の上部左側にはパッチン錠が見え、左側には正面のツマミ二個と小さな突出部とが見え、下には小さなゴム足二個が見える。

(5) 左側面

(イ) 本件登録意匠

(a) 形状は右側面(前記(4)(イ)(a))と同様である。

(b) 把手取付ネジ及び把手に関しても右側面(前記(4)(イ)(b))と同様である。

(c) 筐体の中央右側には金属色長方形のパッチン錠がある。

(d) 筐体の右側には正面のツマミが二個見え、下には小さなゴム足二個が見える。

(ロ) 一〇一型意匠

(a) 形状は右側面(前記(4)(ロ)(a))と同様である。

(b) 中央に把手取付ネジがあり、その右下方に大小二個のコンセントがある。

(c) 筐体の上部右端にはパッチン錠が見え、右側には正面のツマミが二個と小さな突出部とが見え、下には小さなゴム足が二個見える。

(6) 平面

(イ) 本件登録意匠

(a) 横と縦の比が約1.44対0.73で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(b) その横長方形の中央を把手が走り、下側には正面のダイヤルツマミが四個見える。

(ロ) 一〇一型意匠

(a) 横と縦の比が約1.5対0.73で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネット塗装が施されている。

(b) 中央正面端に角形のパッチン錠がある。

(c) 筐体の正面側にダイヤルツマミ五個と小さな突出部とが見え、左側には二個のコンセントが見える。

(7) 底面

(イ) 本件登録意匠

(a) 形状は平面(前記(6)(イ)(a))と同様である。

(b) 四隅に四個の小さな丸いゴム足がついている。

(c) 筐体正面側にダイヤルツマミ四個が見え、背面側には二個のコンセントが見える。

(ロ) 一〇一型意匠

(a) 形状は平面(前記(6)(ロ)(a))と同様である。

(b) 底面の四隅に四個の小さなゴム足、六個の蝶番がある。

(c) 筐体の正面側にはダイヤルツマミ六個と一個の小さな突出部が見え、右側には二個のコンセントが見える。

(二)  これにより、本件登録意匠と一〇一型意匠とを比較すると、

(1) 前記(一)(1)(イ)と同(ロ)とを比較して明らかなように、全体の形状が酷似する。

(2) 前記(一)(2)(イ)と同(ロ)の各(a)(b)(c)(ⅰ)ないし(c)(ⅷ)、(d)(ⅰ)、(d)(ⅱ)、(d)(ⅳ)とを比較して明らかなように、正面の形状および模様が酷似する。

もつとも、右の各(d)(ⅲ)を比較してわかるように、ダイヤルやボタンの配列、個数に相違点が見られるが、前記のように、正面の形状および模様が基本的には同一であること、ダイヤル類は、正面下部約三分の一の部分に設けられた酷似したプロポーションの明色無地のダイヤル表示プレート部分に集められ、しかも、その右から約四分の一のところに配された角形(他のダイヤル、ボタン、スイッチ等は皆丸形である)であつてよく目立つボルトメーターを中にして左右にほぼ等間隔に見えるように全体に単純に配列されていること等から見れば、右相違点をして特に看者の注意を惹くものとは認められない。

(3) 前記(一)(3)(イ)と(ロ)、同(4)(イ)と(ロ)、同(5)(イ)と(ロ)、同(6)(イ)と(ロ)、同(7)(イ)と(ロ)とを各比較して明らかなように、背面、右側面、左側面、平面、底面いずれにおいても全体として類似し、顕著な相違点は見られない。

(三)  そうすると、両意匠は、この種意匠の類否を判断する上において大きなウエイトをもつ全体の形状及び正面の形状、模様が酷似しており、しかも、正面を除くその余の面も全体として類似し顕著な相違点は見られないのであるから、需要者がその製品を彼此混同するおそれがあるものというべく、従つて、債務者製品一〇一型意匠は本件登録意匠に類似するものといわなければならない。

(四)  この点に関し、債務者は、アメリカのレイション社の製品七二五型意匠を介在せしめ、本件登録意匠が七二五型意匠と抵触しないならば、同じ理由で一〇一型意匠は本件登録意匠の権利範囲外にある旨主張する。

しかしながら、本件においては、一〇一型意匠が本件登録意匠に類似するか否かが問われているのであるから、裁判所としては、本件登録意匠の権利範囲を独自に認定し、一〇一型意匠がその権利範囲に含まれるか否かを判断すれば足るりのであり、この場合、本訴において直接問題とされていない七二五型意匠について判断しなければ本件登録意匠と一〇一型意匠との類似非類似の判断ができないなどというものではない。そうであるから、債務者の右主張は既にこの点において理由がない。

なお念のために、本件登録意匠および一〇一型意匠ならびに七二五型意匠とを比較してみると、前記(一)(1)(イ)、同(ロ)および同(ハ)とを各比較して明らかなように、右両意匠と七二五型意匠とは一見して類似していないことが明らかであるから、債務者の右主張はこの点においても理由がない。

五、債務者の先使用権の主張について

(一)  先ず債務者は、一〇一型は、本件登録意匠を知らずそれとは独立に、債務者が本件意匠登録出願前から実施していた一二八型より開発し、一二八型に類似しているものであるから、先使用権がある旨主張する。

しかしながら、〈書証〉パンフレットによつては、僅かに一二八型製品の正面の形状および模様を窺い知ることができるにすぎず、他に同製品のその他の面或いは全体の形状および模様を知ることのできる証拠はないのみならず(もつと、右書証によると一二八型製品は三〇〇粍×二五〇粍×一七〇粍の大きさであることは認められる)、その正面についても、右書証によると、

(1) 目盛表示プレート部分とダイヤル表示プレート部分とは明確に上下二分されていない。

(2) 上部右側部分には円形のネームプレートがあるのみで、透明窓も、廻転深度目盛盤も、ツマミもない。

(3) ダイヤル表示プレートは下部のさらに矩形に属された部分に設けられており、しかも、そこには角形のボルトメーターは置かれていない。

(4) 右ネームプレート、ダイヤル表示プレートおよび上部左側に設けられた記録紙窓は、明色無地の正面に相互に十分の間隔をもつて、しかも、上下、左右各縁とも十分の間隔をもつて独立に配されている。

ことなどを指導することができるのであるから、一二八型製品の意匠が本件登録意匠に類似しているものと認めることはできない。

それ故、債権者が主張するように、本件登録意匠出願前に於ける一二八型の実施を根拠に一〇一型についても先使用権が認められるべきであるとする債務者の主張は、既にこの点からして失当である。

(二)  次に債務者は、昭和四〇年ころに一〇一型のモデルを決定し直ちに製造販売に着手したから先使用権がある旨主張するけれども、右主張に沿う債務者会社代表者Sの尋問の結果はたやすく採用できず、〈書証〉によつては未だ右事実を疎明するに足らず、他にこれを疎明するに足る証拠はない。

六、よつて、債務者は債権者の本件意匠権についての専用実施権を侵害しており、債権者は債務者に対し意匠法第三七条所定の請求権を有するものというべきである。

第二、(仮処分の必要性)

一、〈書証〉ならびに証人Yの証言を綜合すると債権者の主張七ないし一一の事実を認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

二、右事実によれば、債権者は、その有する本件意匠権について専用実施権に対する債務者の侵害行為により著しい損害をうけているということができるから、債権者において、その損害を避けるために本件仮処分の必要があると認められる。

第三、(結論)

以上の次第であるから、債権者の本件仮処分命令申請は理由があり、債務者の本件異議申立は理由がない。そこで、本件仮処分決定を認定する。

(越川純吉 丸尾武良 三宅俊一郎)

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